投稿者: shinsuke009

  • 温泉があるだけでは、宿にはならない。

    天然資源を、宿泊体験という商品に変える。

    温泉付き。

    源泉掛け流し。

    天然温泉。

    もちろん、温泉はものすごく強い資産です。

    でも、

    温泉があることと、
    温泉をちゃんと商品にできていることは、
    まったく別の話です。

    宿の相談を受けると、

    僕は温泉についてかなり細かく訊きます。

    泉質。

    湯量。

    温度。

    源泉の場所。

    引湯経路。

    温泉好きだからというだけではありません。

    後から簡単につくれない資産だからです。

    サウナも、プールも、建物も、

    お金を出せばつくれる。

    でも、その土地に天然温泉があるかどうかは、

    こちらの都合では決められません。

    だから温泉があると聞くと、

    まず思う。

    使い切らないともったいない。

    ところが、

    いい温泉があるのに、

    浴槽にお湯を入れたところで仕事が終わっている宿は結構あります。

    僕が考えたいのは、

    その先です。

    どこで入るのか。

    何が見えるのか。

    風はどう感じるのか。

    朝と夜ではどう違うのか。

    つまり、

    温泉ではなく、
    温泉に入っている時間を設計する。

    景色があるなら、

    湯につかりながら見られないか。

    海を見る。

    山を見る。

    庭を見る。

    空を見る。

    温泉と景色が一つになった時、

    初めて、

    そこでしかできない宿泊体験になる。

    だから僕は露天風呂が好きです。

    露天風呂という設備が好きなのではなく、

    温泉と、その土地をつなげられるからです。

    そしてこれは、

    収益にもつながります。

    宿は、

    泊まる前に売らなければならない。

    露天風呂から海が見える。

    森の中に湯船がある。

    その一枚の写真で、

    「ここへ行きたい」

    と思ってもらえる。

    そうなれば、

    ADRにも稼働率にも効いてくる。

    だから温泉は、

    単なる設備ではありません。

    事業の収益をつくる装置にもなる。

    そのために建築がある。

    窓をどこにつける。

    浴槽をどこに置く。

    何を隠して、

    何を見せる。

    すべて、

    湯につかった人の目線から考える。

    そして、

    温泉だけで終わらない。

    湯から上がったあと、

    どこで過ごすのか。

    何を飲むのか。

    何を見るのか。

    料理とどうつながるのか。

    宿泊体験は、

    設備の集合ではありません。

    全部つながって、一泊になる。

    だから僕は、

    流行っている設備を足す前に、

    まず、その土地がすでに持っているものを使い切りたい。

    温泉があるなら、

    温泉を磨く。

    景色があるなら、

    景色を切り取る。

    庭があるなら、

    庭を活かす。

    それでも足りなければ、

    新しいものを足せばいい。

    温泉がある。

    それだけでは、

    まだ素材です。

    どこで入り、

    何を見て、

    何を感じてもらい、

    そして、

    その体験にいくら払ってもらえるのか。

    そこまで設計して初めて、

    温泉という天然資源が、

    宿泊事業の商品になる。

  • うまくいかなかった時のことを、先に考える。

    僕自身は、新しいことを始める時、

    かなり楽観的だ。

    できると思っているからやる。

    でも同時に、

    うまくいかなかったら、どうする?

    をかなり考える。

    悲観的だからではない。

    始めてしまった後で、

    「そんなはずじゃなかった」

    と言いたくないからだ。

    ——

    僕は基本的に、

    新しい事業については、

    かなりポジティブに考える。

    いい土地を見る。

    面白い建物を見る。

    新しい事業の相談を受ける。

    誰かから、

    「こんなことできませんか」

    と言われる。

    すると、

    できない理由より、

    どうやったらできるかを先に考える。

    たぶん、これは昔から変わらない。

    これをやろう。

    あれもできる。

    ここまでやった方がいい。

    もっと良くできる。

    僕の頭の中では、

    どんどん先まで進んでいく。

    でも、

    その裏側では、

    かなり違うことも考えている。

    もし、売れなかったら?

    もし、人が集まらなかったら?

    もし、僕の読みが外れたら?

    新しい事業を考える時、

    この二人が僕の頭の中に同時にいる。

    一人は、

    「絶対できるだろう」

    と言っている。

    もう一人は、

    「で、ダメだったらどうする?」

    と言っている。

    どちらも僕だ。

    商売をしていれば、

    想定外なんていくらでも起きる。

    だから、

    自分の予測が間違っている可能性を、

    最初から入れておく。

    僕は自分の事業について、

    基本的には自信を持っている。

    自信がなければ、

    自分のお金も時間も使えない。

    でも、

    自信があることと、

    自分が絶対に正しいと思うことは違う。

    僕だって、

    読みを外す。

    普通に間違える。

    だったら、

    間違えない経営者になろうとするより、

    間違えても致命傷にならないようにしておく。

    その方が現実的だと思っている。

    例えば建築。

    僕は建築もインテリアも大好きだから、

    放っておけば、

    いくらでもやりたくなる。

    いい石を使いたい。

    いい木を使いたい。

    家具も妥協したくない。

    照明も気になる。

    でも、

    事業として建築する以上、

    好きだから全部やる、

    では済まない。

    その一千万円を追加したら、

    商品価値はいくら上がるのか。

    客単価は変わるのか。

    稼働率に効くのか。

    競争力になるのか。

    それとも、

    単に僕が気持ちいいだけなのか。

    そこは分けなければならない。

    全部安くするのではない。

    全部豪華にするのでもない。

    勝つために必要なところへ、

    お金を使う。

    そして、

    何か起きた時に動ける余力を残しておく。

    僕は、

    「ダメなら撤退すればいいじゃない」

    と簡単に言うのも好きではない。

    撤退にも、

    お金がかかるからだ。

    事業は、

    始める時より、

    やめる時の方が難しいことさえある。

    だから、

    ダメならやめる。

    だけではなく、

    ダメだった時に、

    何を変えられるか。

    そこまで最初に考えておく。

    値段を変えられるか。

    売り方を変えられるか。

    運営方法を変えられるか。

    規模を変えられるか。

    途中で形を変えられる余地を、

    残しておきたい。

    僕は、

    最初から完璧な事業計画をつくろうとは思っていない。

    そんなもの、

    たぶん存在しない。

    僕がつくりたいのは、

    間違えた時に修正できる事業計画だ。

    成功すると思っている。

    でも、

    外れるかもしれないとも思っている。

    その時、

    次の手は何なのか。

    そこまで考えている経営者の方が、

    僕なら信用する。

    リスクを語ることは、

    弱気ではない。

    リスクを知らないことの方が怖い。

    僕は、

    新しいことをやる時、

    成功するつもりで始める。

    これは絶対だ。

    最初から失敗すると思って、

    事業を始めることなんてない。

    始めた事業には責任を持つ。

    だから、

    うまくいく時だけではなく、

    うまくいかなかった時まで考える。

    それが、

    プロとして事業を始めるということだと思っている。

  • サービスをするみんなへ。

    いいサービスって何だろう。

    丁寧な言葉遣い。

    正しい料理説明。

    きれいな所作。

    もちろん全部大事だ。

    でも僕は、

    それより前にあるものを大切にしている。

    気づくこと。

    お客様が来たことに気づく。

    何かを探していることに気づく。

    困っていることに気づく。

    帰ろうとしていることに気づく。

    サービスは、

    気づかなければ始まらない。

    ——

    僕は、

    「いらっしゃいませ」

    だけでお客様を迎えることに、

    昔から少し違和感があった。

    もちろん、

    いらっしゃいませと言う。

    でも、

    その前でも、その後でもいい。

    「こんにちは。」

    とか、

    「こんばんは。」

    があっていいと思っている。

    だって、

    挨拶だから。

    店員がお客様に言う、

    業務上の掛け声だけではない。

    人と人が会った。

    だから挨拶する。

    僕には、

    その方が自然だ。

    帰る時も同じ。

    「ありがとうございました。」

    もちろん言う。

    でも、

    それだけでは僕には少し寂しい。

    外が雨なら、

    「足元お気をつけください。」

    遠方から来てくださったなら、

    「お気をつけてお帰りください。」

    遅い時間なら、

    「おやすみなさい。」

    何度も来てくださっている方なら、

    「また待ってます。」

    その人と、

    その時に合った言葉が、

    何か一つあっていい。

    これを、

    「退店時にはこの四種類から選んで言ってください」

    とマニュアルにした瞬間、

    たぶん違うものになる。

    自分でその人を見て、

    自分で言葉を選んでほしい。

    僕がサービスで求めているのは、

    そういうことだ。

    目の前の人が、

    今どう感じているんだろう。

    何をしてほしいんだろう。

    どうしたら、

    もう少し気持ちよく過ごしてもらえるだろう。

    そこに興味を持てる人は、

    サービスがどんどん良くなる。

    僕はそう思っている。

    そしてこれは、

    お客様だけの話ではない。

    一緒に働いている人にも同じだ。

    厨房が今、

    ものすごく忙しそうだ。

    だったら、

    今この質問をするのはやめよう。

    隣のスタッフが、

    四卓重なって困っている。

    だったら一卓持とう。

    誰かが失敗した。

    責める前に、

    何が起きたのかを見る。

    気づく人は、

    仲間にも気づく。

    そういう人が何人もいる店は、

    強い。

    最初は、

    気づいたことを店長に伝えるだけでもいい。

    そのうち、

    自分で判断できることが増えていく。

    いつか、

    誰かに言われなくても動けるようになる。

    僕がみんなに期待しているのは、

    ただ、

    「言われたことをやる人」

    になることではない。

    目の前にいる人を見る。

    お客様を見る。

    仲間を見る。

    店を見る。

    そして、

    気づく。

    僕は、

    いいサービスの始まりは、

    ずっとそこにあると思っている。

  • 「流行っているからサウナ」を、僕が嫌う理由。

    宿の相談を受けると、

    「サウナをつくりたい」

    という話が出ることがある。

    僕はサウナが嫌いなわけではない。

    オーナー自身が本当にサウナが好きで、

    「自分ならこういうサウナに入りたい」

    というものがあるなら、

    むしろ徹底的にやればいいと思う。

    僕が嫌なのは、

    「今、流行っているから。」

    という理由だけでサウナをつくることだ。

    流行っているものを足せば、

    事業が強くなる。

    そんなに簡単な話ではない。

    ——

    先日、

    ある宿泊施設の企画について相談を受けた。

    古い建物を活かして、

    一棟貸しの宿にしたいという話だった。

    その中で、

    「サウナをつくりたい」

    という要望があった。

    僕はまず聞いた。

    「サウナ、好きなんですか?」

    これ、僕にとっては結構大事な質問だ。

    本当に好きならいい。

    毎週サウナへ行っている。

    旅先でもサウナのある宿を選ぶ。

    温度にもこだわりがある。

    水風呂にもこだわる。

    外気浴する場所まで自分なりの理想がある。

    そこまで好きなら、

    僕も話を聞きたい。

    その人にしかつくれないサウナが、

    できるかもしれないからだ。

    でも話を聞いていくと、

    「最近人気ですよね」

    「宿にはあった方がいいかなと思って」

    「集客できそうなので」

    という理由だったりする。

    そうなると僕は一度止めたくなる。

    それ、本当に必要ですか。

    その土地には何があるのか。

    建物には何があるのか。

    どんな人に来てもらいたいのか。

    その人は、

    なぜわざわざここまで来るのか。

    そして、

    いくら払ってくれるのか。

    まずそこを考える。

    サウナは、

    その答えの一つになることはある。

    でも、

    最初から答えではない。

    その案件には、

    別のものがあった。

    温泉だ。

    だったら僕は、

    新しくサウナを付けることより、

    まず温泉の価値を最大にすることを考えたい。

    ただ室内に浴槽を置くのではなく、

    外へ出る。

    空を見る。

    風を感じる。

    季節を感じる。

    庭を見る。

    その土地の空気の中で湯につかる。

    露天風呂にした方が、

    この宿は強くなるんじゃないか。

    僕はそう考えた。

    サウナか。

    露天風呂か。

    設備だけを比べているわけではない。

    どちらの方が、

    この場所でしかできない体験になるのか。

    そこを比べている。

    サウナは、どこにでもつくれる。

    もちろん、

    ものすごくいいサウナをつくるなら、

    設計も設備も運営も奥が深い。

    でも、

    流行っているサウナを、

    流行っているという理由だけで付けるなら、

    競合も同じことができる。

    一方で、

    その土地にある温泉。

    その土地の景色。

    庭。

    風。

    古い建物。

    そういうものは、

    他の誰かが簡単にはコピーできない。

    だから僕は、

    流行を無視しているわけではない。

    むしろ見る。

    何が売れているのか。

    人は何を求めているのか。

    どんな宿が選ばれているのか。

    プロなんだから、

    市場を見ないわけない。

    でも、流行を知ることと、流行に乗ることは違う。

    流行っている。だからやる。

    ではなく、

    なぜ流行っているんだろう。

    そこまで考えたい。

    そして、

    その結果やっぱりサウナなら、

    つくればいい。

    しかも、

    やるなら中途半端にやらない方がいい。

    本当にサウナが好きなオーナーなら、

    僕はその偏愛を大切にしたい。

    「普通はこうですよ」

    なんて言って、

    その人の変なこだわりを消したくない。

    むしろ、

    その変態的なくらいのこだわりが、

    商品になることがある。

    好きな人は細かい。

    普通の人が気にしないところまで気にする。

    その細かさが、

    最後に圧倒的な差になることがある。

    だから、

    僕が否定したいのはサウナではない。

    理由のないサウナだ。

    これは飲食店でも同じだと思う。

    流行っている料理だから入れる。

    流行っている内装だから真似する。

    流行っている業態だから出店する。

    SNSで人気だから取り入れる。

    それだけでは、

    僕は怖い。

    流行は変わる。

    でも、

    店は残る。

    建物も残る。

    借金も残る。

    スタッフもいる。

    運営も続く。

    だから、

    流行が終わったあとに、

    何が残るのか。

    そこまで考えてから投資したい。

    あの宿については、

    僕はサウナより露天風呂の方がいいと思った。

    そして話をしていくと、

    オーナーも、

    「確かに、その方がいい」

    となった。

    サウナが嫌いだから勝った、

    という話ではない。

    その場所にとって、

    より強い答えを一緒に見つけただけだ。

    僕が事業開発でやりたいのは、

    たぶん、こういうことなのだと思う。

    流行っているものを持ってくることではない。

    その場所を見て。

    その人を見て。

    そこにあるものを見て。

    何を足すべきか。

    何を足さないべきか。

    何を磨くべきか。

    考える。

    新しいものを足すことだけが、

    プロデュースではない。

    やらないことを決めるのも、

    プロデュースだ。

    僕はそう思っている。

  • 売上をつくるより、利益を残す方が難しい。

    売上が一億円ある。

    聞こえはいい。

    でも、一億円売って一円も残っていなければ、

    僕にはあまり意味がない。

    逆に、売上はそれほど大きくなくても、

    ちゃんと利益が残る。

    働く人に還元できる。

    次の投資もできる。

    僕は、そちらの事業の方が強いと思っている。(昔は真逆の思考でしたが。)

    事業を考える時、

    僕が最後に見ているのは、

    「で、いくら残るの?」という、とても単純なことだ。
    (昔はいくら売れるの?でしたが)

    ——

    売上という数字は分かりやすい。

    一億円。

    三億円。

    十億円。

    大きければ大きいほど、

    なんとなく会社も大きく見える。

    だから僕も当然、売上は見る。

    でも、

    売上だけを見て事業を判断することは、ほとんどない。

    例えば、

    一億円売って、

    最後に一千万円残る事業。

    同じ一億円を売って、

    ほとんど何も残らない事業。

    売上だけ見れば、

    同じ一億円だ。

    でも僕にとっては、

    全く違う事業だ。

    飲食店をやっていると、

    これはものすごくよく分かる。

    お客様がたくさん来る。

    店は満席。

    予約も取れない。

    スタッフも忙しく働いている。

    売上も上がっている。

    傍から見れば、

    ものすごく繁盛しているように見える。

    でも、

    食材原価が高すぎる。

    人件費がかかりすぎる。

    家賃が高い。

    光熱費も高い。

    設備も壊れる。

    修繕もある。

    決済手数料もある。

    全部払ったら、

    「あれ、何が残ったんだ?」

    ということが普通にある。

    これは宿泊事業でも同じだ。

    一泊30万円で売れた。

    それだけ聞けば、

    ものすごく儲かりそうに聞こえる。

    でも、

    一泊30万円という数字だけでは、

    僕には何も分からない。

    年間何泊売れるのか。

    清掃はいくらかかるのか。

    料理をどうするのか。

    サービススタッフは必要なのか。

    予約をどう取るのか。

    建物の維持費はいくらなのか。

    温泉や庭の管理はいくらかかるのか。

    だから僕は、

    「一泊いくらで売れます」

    と聞いても、

    それだけではあまり興奮しない。

    その次に知りたい。

    「で、いくら残るの?」

    事業開発でも同じだ。

    格好いい企画がある。

    建築も素晴らしい。

    場所もいい。

    話題にもなりそうだ。

    僕はそういうものが大好きだから、

    放っておくと、いくらでも夢中になってしまう。

    だからこそ、

    意識的に数字へ戻る。

    いくら投資するのか。

    いくら売れるのか。

    粗利はいくらなのか。

    固定費はいくらなのか。

    何年で投資を回収するのか。

    借入をするなら、

    返済したあとにいくら残るのか。

    そして、

    想定より売上が二割落ちても耐えられるのか。

    僕は事業計画を考える時、

    うまくいった時の数字だけではなく、

    少し失敗した時の数字を見る。

    事業計画なんて、

    数字を良く見せようと思えば、

    いくらでも良くできる。

    客単価を少し上げる。

    稼働率を少し上げる。

    原価率を少し下げる。

    それだけで、

    Excelの中では素晴らしい会社ができる。

    でも、

    現実の商売はExcelほど素直ではない。

    雨も降る。

    雪も降る。

    台風も来る。

    人も辞める。

    機械も壊れる。

    食材も値上がりする。

    工事費も上がる。

    競合もできる。

    だから、

    少しくらいうまくいかなくても死なない事業にしておく。

    僕はその方が大切だと思っている。

    もちろん、

    利益だけを追えばいいわけでもない。

    料理の質を落とす。

    人を減らす。

    サービスを削る。

    建築も家具も安くする。

    それで利益率だけを上げても、

    お客様が来なくなったら意味がない。

    難しいのは、

    価値を落とさずに、利益を残すこと。

    僕らは商売をやっている。

    実際のお金を使っている。

    そこで働く人がいる。

    取引先がいる。

    借りたお金は返さなければならない。

    店をつくれば、

    その店を守らなければならない。

    だから僕は、

    プロとして商売をしている以上、

    利益を残すことは責任だと思っている。

    売上をつくるのも難しい。

    でも、

    売上をつくりながら、

    価値を落とさず、

    人にも還元して、

    必要な投資もして、

    最後にちゃんと利益を残す。

    僕は、その方がずっと難しいと思っている。

    失敗すれば修正する。

    数字から逃げない。

    守るべきものを守る。

    それが、

    商売をするプロとしての仕事だと思っている。

  • 料理で★5でも、接客で★2なら僕は悔しい。

    料理は★5。

    でも、接客は★2。

    先日、うちの店にそんな口コミをいただいた。

    料理を褒めてもらえたことは嬉しい。

    でも僕は、この評価がものすごく悔しかった。

    僕らがつくりたいのは、

    料理だけがうまい店ではないからだ。

    ——

    口コミというのは、結構勇気がいる。

    特に厳しいことを書く時はそうだと思う。

    何を書こうか考える。

    文章にする。

    読み返す。

    「こんなことまで書いていいのかな」

    と迷うかもしれない。

    その人は、自分の時間を使ってそこまでして伝えてくれている。

    僕はまず、

    そこにありがとうと言いたい。

    店にいる人間には、見えないことがある。

    毎日同じ場所にいるからこそ、

    いつの間にか当たり前になってしまっていることもある。

    言葉遣い。

    表情。

    料理を置く時の所作。

    お客様を待たせている時間。

    呼ばれた時の反応。

    自分たちでは、

    「普通にやっている」

    つもりでも、

    お客様にはそう見えていないことがある。

    僕は普段、店にはほとんどいない。

    それでも極力、

    自分の店で食事をするようにはしている。

    料理はちゃんとうまいか。

    店は綺麗か。

    サービスは気持ちいいか。

    料理が出てくる間はどうか。

    スタッフはお客様を見ているか。

    自分がお客様の側に座ってみないと、

    分からないことがあるからだ。

    でも、

    それでも毎日の営業を見ているわけではない。

    僕の目の届かないところを、

    お客様が教えてくれる。

    しかも、

    お金を払って食事をしたうえで、

    さらに自分の時間を使って教えてくれる。

    そう考えると、

    口コミというのは結構ありがたいものだと思う。

    もちろん、

    「それは違うんだけどな」

    と思うことだってある。

    店側には店側の事情もある。

    混んでいた。

    スタッフが足りなかった。

    たまたま新人だった。

    その日だけトラブルがあった。

    理由はいくらでもある。

    でも、

    お客様には関係ない。

    その日、その時間に受けたものが、

    その人にとっての僕らの店だからだ。

    だから僕は、

    口コミに対して言い訳をしたくない。

    まず読む。

    考える。

    事実を確認する。

    そして、

    直せるところがあるなら直す。

    それでいい。

    今回、特に悔しかったのは、

    料理をちゃんと評価していただいていたことだった。

    料理は★5だった。

    厨房では、

    ちゃんとうまいものを出せていた。

    だからこそ、

    あと少し何かが違えば、

    その人の食事はもっと気持ちのいい時間になったはずなのだ。

    それが悔しい。

    僕らの店の一番太い軸は、

    うまいものが食べたい。

    ここだ。

    でも、

    うまい料理を嫌な気分で食べたい人なんていない。

    僕なら嫌だ。

    うまいものなら、

    気持ちのいい場所で食べたい。

    親切な人に迎えてもらいたい。

    気の利くサービスを受けたい。

    最後は気持ちよく帰りたい。

    別に難しい理念があるわけではない。

    自分がそういう店で食べたいからだ。

    そして、

    料理★5、接客★2。

    これはサービススタッフだけの問題ではない。

    店長だけの問題でもない。

    料理人も。

    サービスも。

    店長も。

    会社も。

    僕も。

    お客様から見れば、

    全部ひとつの店だからだ。

    悪い口コミをゼロにすることが、

    いい店をつくることだとは思っていない。

    商売をしていれば、

    厳しい意見をいただくことはある。

    大切なのは、

    その時に店がどうするかだと思う。

    言い訳するのか。

    無視するのか。

    腹を立てるのか。

    それとも、

    一度ちゃんと受け止めて、

    自分たちの店を見るのか。

    僕は最後を選びたい。

    僕らが目指しているのは、

    「料理はうまかった」

    で終わる店ではない。

    食事をして、

    店を出て、

    振り返った時に、

    「いい店だったな」

    と思ってもらえる店。

    料理も。

    接客も。

    空間も。

    人も。

    全部ひっくるめて、

    いい店だったと思ってもらいたい。

    だから、

    料理で★5でも、接客で★2なら僕は悔しい。

    まだ僕らには、

    良くできるところがあるということだから。

  • 経営者に必要なのは、答えより対話かもしれない。

    答えを渡す人ではない。一緒に問いを見つける人。

    経営者になると、
    「どうしますか」
    と聞かれることが増えます。

    採用をどうする。
    値段をどうする。
    この店を続けるのか。
    新しい事業をやるのか。
    投資するのか。
    撤退するのか。
    最後には、
    「シンさん、どうします?」
    がやってくる。

    決めるのが経営者の仕事だから、
    当たり前です。

    でも、
    経営者だから何でも答えを持っている、
    なんてことは全然ありません。

    むしろ、
    難しい問題ほど、
    最初から答えなんて分からない。

    僕自身、
    悩んでいる時に、
    誰かから答えを教えてほしいと思うことは、
    それほど多くありません。

    むしろ、
    話したい。
    「こう思ってるんだけど、どう思う?」
    と言いたい。

    そして、
    「なんで?」
    と聞かれたい。

    なぜ、その店を続けたいのか。
    なぜ、その人に任せたいのか。
    なぜ、その土地が欲しいのか。
    なぜ、それでもやりたいのか。

    人に聞かれて初めて、
    「あれ、なんでだろう」
    となることがあります。

    逆に話しているうちに、
    「ああ、僕はやっぱりこれがやりたいんだ。」
    と気づくこともある。

    誰かに答えをもらったわけではない。
    自分で喋って、
    自分で気づいただけです。

    僕が経営者から相談を受ける時も、
    すぐに答えを言わないことがあります。

    最初に出てきた質問が、
    本当の問題とは限らないからです。

    「売上を増やしたい」
    と言っていたけれど、
    本当に困っているのは幹部との関係かもしれない。

    「人が採れない」
    と言っていたけれど、
    採用以前に、
    辞めていく理由が社内にあるかもしれない。

    だから、
    質問そのものを疑う。
    「どうやったら売上が上がりますか?」
    に答える前に、
    「なぜ売上を上げたいんですか?」
    から始めた方がいいこともあります。

    もちろん、
    僕なりの意見は言います。
    むしろ、
    かなり言う。

    違うと思ったら違うと言う。
    危ないと思ったら止める。

    面白いと思ったら、
    「それ、やりましょうよ。」
    と言う。

    でも、
    最後に決めるのは経営者やオーナーです。

    会社も、
    お金も、
    人生も、
    その人のものだから。
    参謀が代わりに決めてはいけない。

    だから僕が思う経営参謀は、
    何でも知っている先生ではありません。

    答えを渡す人でもない。
    一緒に問いを見つける人。

    考えて、
    話して、
    気づいて、
    最後は自分で決める。

    前を歩いて、
    「こっちへ来い」
    と言うのでもない。
    後ろから、
    「頑張れ」
    と言うのでもない。

    隣にいて、一緒に地図を見る。

    「そっち、崖じゃないですか。」
    「こっちにも道がありそうですよ。」
    そんなことを言いながら、
    一緒に考える。

    でも、
    どの道を歩くかを決めるのは、
    経営者やオーナーです。
    僕には、
    それくらいの距離がちょうどいい。

  • 景色には、値段がある。

    その景色を、いくらの価値に変えられるか。

    海が見える。

    山が見える。

    街の灯りが見える。

    不動産の世界では、

    「眺望良好」

    の一言で片づけられることもあります。

    でも僕は、

    景色をそんなに軽く考えていません。

    景色には、値段がある。

    特に宿泊事業では、

    それがそのまま事業の強さになることがあります。

    僕は土地を見に行くと、

    まず景色を見ます。

    海が見えるか。

    山が見えるか。

    空がどれくらい見えるか。

    朝はどうか。

    夕方はどうか。

    夜は何が残るか。

    そして、

    どこに立った時が一番美しいか。

    同じ「海が見える」でも、

    少し見えるのと、

    水平線まで抜けるのとでは、

    まったく違います。

    そして、

    もっと大切なのは、

    建物の中からどう見えるか。

    土地に立った時は絶景でも、

    建物を建てたら台無しになることがある。

    逆に、

    一見それほどでもない土地が、

    建物の位置を少し変えるだけで化けることもあります。

    床を少し上げる。

    窓の位置を変える。

    電柱を消す。

    隣家を消す。

    道路を消す。

    そして、

    海だけを残す。

    山だけを残す。

    僕は、

    借景という考え方が好きです。

    遠くの山も、

    海も、

    空も、

    街の灯りも、

    窓の切り取り方一つで、

    自分の空間の一部になる。

    だから、

    小さな建築でも、

    景色まで含めれば、

    ものすごく豊かな場所をつくることができます。

    そして宿泊事業では、

    その景色が、

    売上に変わる。

    家具なら買える。

    設備も買える。

    料理だって研究できる。

    でも、

    その土地から見える景色は、他の宿には真似できない。

    だから僕は、

    景色のある土地を見ると、

    「すごいな」

    で終わりません。

    「この景色はいくらになるんだろう。」

    と考えます。

    品がないように聞こえるかもしれない。

    でも、

    価値をきちんと事業に変えられれば、

    建物にも、

    庭にも、

    サービスにも、

    働く人にも、

    ちゃんとお金をかけられる。

    そして、

    その場所を長く守ることができます。

    価値があるものを安く売ることが、

    良心的だとも思いません。

    一泊30万円の価値があるなら、

    30万円で売ればいい。

    その代わり、

    30万円払った人に、

    「ここへ来てよかった。」

    と思ってもらう責任があります。

    だから、

    景色のいい土地で考えるのは、

    格好いい建物を建てることだけではありません。

    どこに建てるか。

    どちらを向けるか。

    どこに座るか。

    どこで風呂に入るか。

    朝、目を覚ました時に何が見えるか。

    夕方、酒を飲む時に何が見えるか。

    人が実際に過ごす目線から、景色を考える。

    景色は、

    僕らがつくったものではありません。

    その場所にあるものを、

    一番いい形で借りる。

    そして、

    事業として価値に変える。

    景色には、値段がある。

    その値段を最大にするのも、

    台無しにするのも、

    事業と建築のつくり方次第だと思っています。

  • これから一緒に働く人へ。

    会社が人を選ぶだけではなく、働く人も会社を選ぶ。

    だから、いいことばかり並べた採用ページをつくるより、
    僕がどんな仕事をしたいのか。
    どんな人と一緒にいたいのか。
    ちゃんと伝えておきたい。

    合う人には、きっと面白い会社だと思う。
    合わない人には、たぶん居心地が悪い。
    それくらいでいいと思っている。

    ——

    僕は、採用というものがあまり得意ではない。
    「当社はこんな素晴らしい会社です」
    「こんな成長ができます」
    「福利厚生も充実しています」
    みたいなことを並べて、人を集めることにあまり興味がない。

    会社だって選ぶ。
    働く人だって選ぶ。
    お互いに、
    「ここなら一緒にやれそうだ」
    と思えるかどうか。
    結局、それが一番大事だと思っている。

    うちの会社には、いろんな仕事がある。
    和食。
    イタリアン。
    松阪牛。
    うなぎ。
    焼肉。

    当然、料理人もサービスの人も店長も必要だ。

    でも今、僕が一緒に仕事をしたいと思っている人は、それだけではない。

    暖簾分けもやる。
    宿もつくる。
    不動産も見る。
    事業を考える。
    建築にも入る。
    経営者の相談にも乗る。

    自分たちでも新しい仕組みをつくる。

    だから、とんでもなく何かができる人がいたら、
    今、会社に存在しない仕事だってつくれると思っている。

    ただ、ここが難しい。

    普通には募集できないのだ。

    「事業開発スタッフ募集」
    と書けばいいのかもしれない。

    でも、僕が欲しいのは、たぶんそういう一般的な意味での事業開発スタッフではない。

    僕と一緒に土地を見て、
    数字を見て、
    建築を考えて、
    商売を考えて、
    人と交渉して、
    文章を書いて、
    時には揉め事の中にも入る。

    そして次の日には、飲食店のことを考えている。

    職種名をつけるのが難しい。

    そして、もっと難しいことがある。

    ほぼ僕とのタイマン勝負になる。

    僕は仕事をしている時、かなり速い。
    思いついたら考える。
    考えながら動く。
    動きながらまた変える。

    昨日言ったことより、今日もっといい答えが見つかったら、普通に今日の答えを選ぶ。

    一つの案件を話していたと思ったら、別の事業へ飛ぶ。

    数字も見る。
    デザインも見る。
    現場にも行く。
    細かいところにも口を出す。
    たぶん、かなり面倒くさい。

    相手に合わせて僕が速度を落とし、仕事を加減し続ければ、一緒に働くこと自体はできると思う。

    でも、それでは困る。

    僕の仕事が、僕の仕事ではなくなってしまうからだ。

    だから、
    この速度と領域を面白がって、
    僕と真正面から仕事ができる人がいるなら、会ってみたい。

    学歴でも肩書でもない。
    何か一つでも、
    「この人、ちょっと普通じゃないな」
    と思わせるものを持っている人。
    僕の言うことを聞いてくれる人が欲しいわけでもない。
    むしろ、
    「シンさん。それ、違うんじゃないですか」
    と言える人の方がいい。

    自分の頭で考えて、
    自分で気づいて、
    必要なら僕とも意見をぶつける。

    そんな人となら、
    今は存在しない仕事だって、一緒につくれると思っている。

    僕とタイマンで仕事をする、
    ちょっと普通ではない人。

    どこかにいないかな、と思っている。

  • 強い事業をつくってから、きれいな店をつくる。

    建築を考える前に、商売を考える。
    僕は、店や宿をつくる時、最初から図面を描き始めることはほとんどない。
    その場所で、
    誰に、
    何を、
    いくらで売るのか。
    まず、強い事業をつくる。
    建築は、そのあとでいい。
    ——
    新しい店や宿の相談を受けると、
    「こんな建物にしたい」
    「こんなデザインが好き」
    という話から始まることが多い。
    もちろん、それは大切だ。
    僕自身、建築もインテリアも大好きだ。
    というか、好きの度合いが少し普通ではないらしく、周りから「変態」と呼ばれることもしばしばある。
    建築を見に行くためだけに出掛けることもある。
    素材や納まり、照明、家具、窓から何が見えるか。
    そんなことを延々と見ていられる。
    そして僕は、
    「美しい」
    という言葉を割と普通に、真顔で使う。
    美しい建築。
    美しい空間。
    美しい佇まい。
    そういうものが本当に好きなのだ。
    だから、格好悪いものをつくりたいなんて微塵も思わない。
    それでも、最初に考えるのはそこではない。
    この場所で、何を商売にするのか。
    例えば、景色のいい土地に宿をつくるなら、
    何室つくるのか。
    一泊いくらで売るのか。
    誰が泊まりに来るのか。
    年間何泊売るのか。
    その人は何を目的にここまで来るのか。
    食事はどうするのか。
    温泉はあるのか。
    スタッフは何人必要なのか。
    清掃をどうするのか。
    予約をどう取るのか。
    そして、
    いくら売って、いくら残るのか。
    そこまで考えて、場合によっては、
    「そもそも宿にしない方がいいんじゃないですか」
    となることだってある。
    飲食店でも同じだ。
    二十席必要なのか。
    十席でいいのか。
    料理人は何人いるのか。
    客単価はいくらなのか。
    一日に何回転させるのか。
    ランチをやるのか。
    夜だけで成立するのか。
    個室は必要なのか。
    厨房は本当にそこまで大きくする必要があるのか。
    これが決まっていないのに、
    「厨房は何坪にしましょう」
    「客席は何席にしましょう」
    と図面を描き始めても仕方がない。
    事業が建築を決める。
    僕はそう考えている。
    建築には、不思議な力がある。
    綺麗なCGを見ると、なんとなく事業まで成功しそうに見える。
    格好いい平面図を見ると、なんとなく良い店ができそうな気がする。
    でも当然ながら、
    美しい建築と、儲かる商売は別物だ。
    どれだけ美しい宿でも、お客様が来なければ続かない。
    どれだけ格好いいレストランでも、その建築を成立させるために人件費や固定費が膨らみ、売上で吸収できなければ苦しくなる。
    建物をつくった瞬間から、
    その建築は経営に参加する。
    だから僕は、建築を経営から切り離して考えたくない。
    僕がよくやるのは、逆算だ。
    この宿なら、一泊十万円を取れる。
    年間これくらい稼働できる。
    だったら、年間売上はこれくらい。
    運営費を引けば、これくらい残る。
    その事業なら、
    投資できる金額はここまで。
    だったら、その予算の中で一番いい建築をつくろう。
    この順番だ。
    単純なコストカットではない。
    景色。
    温泉。
    露天風呂。
    お客様がその場所を選ぶ決定的な理由になるものなら、そこにはお金をかける。
    逆に、事業を強くしないものには、必要以上にかけない。
    お金をかける場所と、
    かけない場所を決める。
    これも事業設計だと思っている。
    だから僕がやっていることを、
    「店舗デザインですか」
    「建築プロデュースですか」
    と聞かれると、少し答えに困る。
    デザインもする。
    建築にもかなり口を出す。
    料理も考える。
    価格も考える。
    オペレーションも考える。
    場合によっては、物件探しから始める。
    でも、それぞれを別々にやっている感覚はない。
    その場所に、まず強い事業をつくる。
    そして、その事業に必要な建築をつくる。
    長く続く。
    ちゃんと利益が出る。
    そこで働く人にも無理がない。
    お客様にも喜ばれる。
    そのうえで、美しい。
    僕がつくりたいのは、そういう場所だ。
    だから順番は変えない。
    強い事業をつくってから、きれいな店をつくる。
    僕にとって事業開発とは、
    たぶん、そういう仕事だ。