建築を考える前に、商売を考える。
僕は、店や宿をつくる時、最初から図面を描き始めることはほとんどない。
その場所で、
誰に、
何を、
いくらで売るのか。
まず、強い事業をつくる。
建築は、そのあとでいい。
——
新しい店や宿の相談を受けると、
「こんな建物にしたい」
「こんなデザインが好き」
という話から始まることが多い。
もちろん、それは大切だ。
僕自身、建築もインテリアも大好きだ。
というか、好きの度合いが少し普通ではないらしく、周りから「変態」と呼ばれることもしばしばある。
建築を見に行くためだけに出掛けることもある。
素材や納まり、照明、家具、窓から何が見えるか。
そんなことを延々と見ていられる。
そして僕は、
「美しい」
という言葉を割と普通に、真顔で使う。
美しい建築。
美しい空間。
美しい佇まい。
そういうものが本当に好きなのだ。
だから、格好悪いものをつくりたいなんて微塵も思わない。
それでも、最初に考えるのはそこではない。
この場所で、何を商売にするのか。
例えば、景色のいい土地に宿をつくるなら、
何室つくるのか。
一泊いくらで売るのか。
誰が泊まりに来るのか。
年間何泊売るのか。
その人は何を目的にここまで来るのか。
食事はどうするのか。
温泉はあるのか。
スタッフは何人必要なのか。
清掃をどうするのか。
予約をどう取るのか。
そして、
いくら売って、いくら残るのか。
そこまで考えて、場合によっては、
「そもそも宿にしない方がいいんじゃないですか」
となることだってある。
飲食店でも同じだ。
二十席必要なのか。
十席でいいのか。
料理人は何人いるのか。
客単価はいくらなのか。
一日に何回転させるのか。
ランチをやるのか。
夜だけで成立するのか。
個室は必要なのか。
厨房は本当にそこまで大きくする必要があるのか。
これが決まっていないのに、
「厨房は何坪にしましょう」
「客席は何席にしましょう」
と図面を描き始めても仕方がない。
事業が建築を決める。
僕はそう考えている。
建築には、不思議な力がある。
綺麗なCGを見ると、なんとなく事業まで成功しそうに見える。
格好いい平面図を見ると、なんとなく良い店ができそうな気がする。
でも当然ながら、
美しい建築と、儲かる商売は別物だ。
どれだけ美しい宿でも、お客様が来なければ続かない。
どれだけ格好いいレストランでも、その建築を成立させるために人件費や固定費が膨らみ、売上で吸収できなければ苦しくなる。
建物をつくった瞬間から、
その建築は経営に参加する。
だから僕は、建築を経営から切り離して考えたくない。
僕がよくやるのは、逆算だ。
この宿なら、一泊十万円を取れる。
年間これくらい稼働できる。
だったら、年間売上はこれくらい。
運営費を引けば、これくらい残る。
その事業なら、
投資できる金額はここまで。
だったら、その予算の中で一番いい建築をつくろう。
この順番だ。
単純なコストカットではない。
景色。
温泉。
露天風呂。
お客様がその場所を選ぶ決定的な理由になるものなら、そこにはお金をかける。
逆に、事業を強くしないものには、必要以上にかけない。
お金をかける場所と、
かけない場所を決める。
これも事業設計だと思っている。
だから僕がやっていることを、
「店舗デザインですか」
「建築プロデュースですか」
と聞かれると、少し答えに困る。
デザインもする。
建築にもかなり口を出す。
料理も考える。
価格も考える。
オペレーションも考える。
場合によっては、物件探しから始める。
でも、それぞれを別々にやっている感覚はない。
その場所に、まず強い事業をつくる。
そして、その事業に必要な建築をつくる。
長く続く。
ちゃんと利益が出る。
そこで働く人にも無理がない。
お客様にも喜ばれる。
そのうえで、美しい。
僕がつくりたいのは、そういう場所だ。
だから順番は変えない。
強い事業をつくってから、きれいな店をつくる。
僕にとって事業開発とは、
たぶん、そういう仕事だ。
