#01

ここにも、あったらいいのに

2025春 | EPISODE

寿ゞきんと鈴喜を広げたいと思った理由は、壮大な事業計画があったからではない。

もっと単純な話だ。

僕自身が、日本中を動き回っていると、自分の店の味が恋しくなるからだった。

寿ゞきんと、うなぎの鈴喜。

この二つの店をもっと広げたいと思った、そもそもの起源はものすごく単純だ。

マーケットに、あまり無いからだ。

美味いだけの店なら、少なからずある。

でも、

美味くて、
親切で、
人の心がかよっていて、
心地よい素敵な空間があって、
それでいて価格も良心的。

僕が「こういう店で食べたい」と思う店は、意外なくらい少ない。

僕は仕事柄、日本全国いろいろなところを駆け回っている。

だから、自分の店に帰れるのはたまにしかない。

そうすると、ときどき無性に寿ゞきんの肉が食べたくなる。

鈴喜の鰻が食べたくなる。

そんな時に思う。

ここにも、あったらいいのになあ。

全国制覇したいわけではない。

店舗数を競いたいわけでもない。

自分が食べたい時に、食べたい店がない。

だったら、あったらいい。

本当に、それくらい単純な話から始まっている。

ただ、僕は自分たちのビジネスについては、基本的に超がつくほどポジティブにしか考えない。

「あそこにもあったらいい」

「ここにもつくろう」

と言ってはみるが、社内のみんなから猛反対される。

考えてみれば当然だ。

店のみんなは、毎日その店にいる。

僕みたいに遠く離れた場所で、

「ああ、寿ゞきん食べたいなあ」

と恋しくなることは、たぶんない。

それより先に、

「店が増えたら大変ですよ」

となる。

そりゃそうだ。

そして最後には、いつも同じところに行き着く。

「人がいません。」

ごもっともである。

だから僕も、何度も諦めてきた。

でも、ある時ふと思った。

本当に「人がいない」で終わりなんだろうか。

店を増やすなら、自分たちで人を採用して、自分たちで育てて、自分たちで全部運営する。

僕自身が、そう思い込んでいただけじゃないのか。

この「人がいない」という問題を、別の角度から考え直したところから、

暖簾分けという、新しい扉が開き始めた。

シンスズキ|事業家・経営参謀
ワンスインアライフタイム株式会社のオーナーでもあり、飲食、宿泊、不動産、建築など、いくつかの事業に人生をかけて取り組んでいます。ときどき、他社の経営にも首を突っ込みます。