残っている価値を見つけて、もう一度事業に戻す。
古い建物を見ると、
「壊して新築した方が早いですよ」
という話になりやすい。
実際、
その方が合理的なこともあります。
僕も、
何でも古いものを残せばいいとは思っていません。
でも、
壊すのはいつでもできる。
だから、その前に一度だけ考えたい。
これ、本当に要らないのかな。
古い家。
使われなくなった旅館。
昔の店舗。
長い間、誰も手を入れていない建物。
確かに大変です。
寒い。
暗い。
間取りも今の生活に合わない。
設備も古い。
耐震も考えなければならない。
直すにも当然お金がかかる。
だったら、
全部壊して新しく建てる。
その判断が正しいこともあります。
でも僕は、
解体する前にかなり細かく見ます。
柱。
梁。
天井。
建具。
庭。
石。
窓から見える景色。
昔の人が、
なぜここに部屋をつくったのか。
なぜこちらに建物を向けたのか。
今の建物としては不便でも、
そこにしかないものが残っていることがある。
新築は自由です。
ゼロから考えられる。
だからこそ、
どこにでもあるものもつくれてしまう。
一方で古い建物には、
こちらでは決められないものがあります。
百年前の柱。
妙な段差。
不思議な間取り。
大きすぎる庭石。
今なら絶対こんなところにはつくらない、
という場所にある窓。
邪魔だと思えば全部邪魔です。
でも見方を変えれば、
それが個性になることもある。
特に宿は、
新しいこと自体が価値とは限らないと思っています。
お客様は、
新築の建物を見に来るわけではない。
そこでしかできない時間を過ごしに来る。
だったら、
その場所に積み重なってきた時間を、
少し残した方がいいこともある。
ただし、
僕は保存活動をしているわけではありません。
古いから残す。
歴史があるから残す。
それだけでは事業にならない。
使いにくいなら変える。
暗いなら開ける。
寒いなら直す。
どうにもならないなら壊す。
僕が考えるのは、
「これを残した方が、商品として強くならないか。」
ということです。
古い建具を一枚残す。
昔からある庭を、
新しくつくった浴室から見る。
古い梁を見せながら、
照明は現代のものにする。
全部昔に戻す必要はありません。
その建物が持っている時間を使いながら、
今の快適さをつくればいい。
そして当然、
数字も見ます。
残す方が新築より高くなることもある。
改修を始めたら、
次から次へと問題が出ることもある。
そんな時に、
「歴史がありますから」
だけで、
オーナーのお金を使い続けるわけにはいきません。
残す価値。
改修費。
完成後の商品力。
売上。
維持費。
全部を見て決める。
美しいだけでも駄目だし、安いだけでも駄目。
使われなくなった建物も、
価値がなくなったとは限りません。
使い方が、まだ見つかっていないだけかもしれない。
実際に見に行くと、
たまにあります。
「いや、これ、磨いたらものすごく良くなるんじゃない?」
という瞬間が。
建物全部ではないかもしれない。
庭かもしれない。
景色かもしれない。
温泉かもしれない。
一本の梁かもしれない。
それを見つけたら、
そこから考える。
何を残す。
何を捨てる。
何を足す。
そして、
どう商売にする。
僕にとってリノベーションは、
古い建物を綺麗にする仕事ではありません。
残っている価値を見つけて、
もう一度事業に戻す仕事です。
だから、
古いから壊す。
その判断は一番最後でいい。
散々見て、
数字にもぶつけて、
「やっぱり壊そう」
なら、普通に壊す。
でも、
一度壊したものは戻せない。
だったら、その前に一度くらい、
本気で、
「この建物、まだ何かできないかな。」
と考えてみたい。
そこから、
思いもしなかった事業が始まることがあります。
